百合アンソロへの追憶「つぼみ」編-君が見たすべての百合
『あなたに響く百合アンソロジー エクレア』の制作が決定した。
執筆陣として、既に「やがて君になる」の仲谷鳰先生が公表されている。
電撃という看板の大きさは今更語るまでもあるまい。
エクレアはKADOKAWAという考えうる中で最も強大な組織が手掛けた百合アンソロだ。オタクをやっていたら、どこかでKADOKAWAの名前を見ているだろう?
百合好きなみんなはもちろん、百合のことをよく知らないけどなんかいいなって思ってる人も、買ってほしいんだ。
アンソロジーは詞華集ともいう。その語源はギリシア語 anthos (花) +legein (摘む) で,花束だとされている。
大正の名著「花物語」では、女同士の関係性を花に例えた。
百合アンソロは色とりどりの花束なのだ。
百合アンソロの利点は、まさにこの「いろいろな作品に触れられる」という点にある。
絵柄・作風・舞台・設定が異なる様々な作品をまとめて読めることは、とりわけ百合の世界に入門してきたばかりの初心者にはありがたいことだと思う。気に入った方向性のものを探しやすいからね!
百合というものが分からない人は、百合アンソロの中から気に入った作風のものを見つけ出してほしい。
百合に長らく親しんできた人は普段とは違う花を愛でる機会になるだろう。
アンソロジーは百合の世界を広げることに大きく貢献する。
また、多くの百合アンソロは単行本の形態をとるため、ISBNコードを持つ。なので個別の本屋で取り寄せてもらうこともできるし、中古市場に出回っても雑誌よりも処分されにくい。既刊を手に入れやすいという点は雑誌に大きく勝るポイントだ。
さらにさらに、普段百合を描かない作家さんが登場していることもあるし、そうした短編は単行本化されにくいから超レアだ!!! 1000円ぐらい課金したら、そういうSSRが無料で手に入っちまうんだ!
まだまだ発展しなければならない百合にとってアンロソジーの価値は計り知れないと断言しよう!
君は覚えているだろうか? これまでの百合アンソロを。
これまでに様々な百合アンソロが現れては消えていった。中には一冊目で失われたものだってある。
どのようなものでも終わりは訪れる。商業で行われているものはなおさらシビアだ。
花束は枯れ、いずれ消えゆく。
しかし、その想い出を語り継ぐことはできるはずだ。
今回は私が所持している百合アンソロの紹介を行いたい。
「あまくてやさしい百合アンソロジー つぼみ」
2009年2月~2012年12月(季刊→隔月)
つぼみ VOL.4 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)
- 作者: 鳴子ハナハル他
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2009/11/11
- メディア: コミック
- 購入: 5人 クリック: 108回
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私がはじめて買った百合アンソロはつぼみのVol.4だった。当時の最新刊だった。
私は百合というものをほとんど理解していなかった。*1ただ、百合というものがとても心を躍らせてくれる素敵なものということだけは分かっていた。インターネットで百合SSを探すことはあっても、もっと濃いというか、とにかくみっしりと百合が詰まったものはどうすれば摂取できるのか全然知らなかった。
私は百合を探していた。
そういう時に、「ここに載ってるのは全部百合漫画」ってのはとても刺激的で、なんだか信じられないものだった。はぐれメタル8匹に出会ったような気持ちだったね。
途中からの話だったんだけど、星川銀座四丁目が良かった。
新米教師と不登校少女の百合なんだ、二人して生活するんだぜ? 最高だろ?
このころからおねロリが好きだったんだねえ……
そういうわけで既刊であったVol.1~3もそろえるのに時間はかからなかった。季刊が隔月に変わった時は本当にわくわくしたもんさ。
それから休刊までずっと買ってきたけど、Vol.21で、つぼみが終わるなんて信じられなかった。それまで当たり前のように隔月で百合をくれたんだ。行きつけの店が急に閉まって、お気に入りの料理も気の合う常連とも二度と会えなくなるなんて信じられなかった……
――と、まぁ、つぼみは凄く思い入れがあってこれだけで無限に想い出話ができるんだけど、それは本筋ではないしそろそろ中身の解説に移ろう!
あまくてやさしいというのキャッチコピーにしてるだけあって、基本的に構成はとても素直だ。百合全体の割合もそうではあるが、学生同士の百合が多くて、キツい描写も少ない。スタンダードすぎるという弱みはあるかもしれないが、王道とは常に実家のような安心感を与えてくれるものだろう?
よくわからないけど、まずは百合というものを知ってみたいなら、つぼみを読んでみれば間違いない。
それから、長期にわたって百合を供給し続けたという点もかなり大事だと思う。
あと、これは当時買っていた人にしかわからないかもしれないが、毎度毎度よくわからないオシャレな数式が帯に載っていたね!
(つぼみVol.12より。小梅けいと先生の「ロボ×少女技師」百合が読めるぞッ!)
こういう感じでルビが振ってあるわけだ。あれも結構楽しみだったなぁ……
つぼみで執筆した有名な作家としては
・吉富昭仁
・玄鉄絢
・鳴子ハルナル
・コダマナオコ
辺りが挙げられるだろう。
一筋縄ではいかない、感情の絡まり合いを描くような漫画が多いきづきあきら+サトウナンキのエビスさんとホテイさんが読めるのはつぼみだけ!!!
嫉妬も葛藤も懊悩も、エビホテにばっちり刻み込まれているぞ!
それから「あまくてやさしい」という方向性からすれば意外かもしれないが成年向けの漫画で活躍している作家も結構登場している。
・東山翔
・イコール
なんかがいるね!
つぼみではエロ漫画を描いてるわけではないから、いつもお世話になってる! って人は試しにどうかな???? あたらしい世界の扉を開いてみないか???
特に東山翔先生の「prism」は素晴らしいと断言できる百合漫画だよ!
prism (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
- 作者: 東山翔
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2012/04/12
- メディア: コミック
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爽やかな絵柄と透き通った空気感とほのかなエロスがな……夏の日に気だるく飲んだサイダーみたいな味わいっていうか……。ゆるゆりの百合成分を思い切り正統派に増幅した感じっていうか……最高……!
でも、そんなprismも、ちょっとアレな一件で連載がストップして、そのまま再開かなわぬままにつぼみは枯れてしまったんだ……。
これはなんの根拠もないアレなんだけど、とりわけロリ系のエロ漫画を描いてる作家さんは百合漫画でも強い力を発揮するように感じるね! 普通のヘテロセックス以上に「可愛らしい女の子」という要素に普段からリソースが割かれているからだろうか?
こうした成年向け中心の作家を招聘するというスタイルは後日紹介予定のメバエにも受け継がれたね!
つぼみが刊行されていた、2010年代初めは「魔法少女まどか☆マギカ」「けいおん」といった百合アニメ的にもビッグタイトルが放送されていた。
いわゆる日常系という概念が誕生、発展しつつあった時代だった。
日常系と百合の親和性は高い。日常系アニメは「きらら系」とも呼ばれ、まさにそうした漫画を得意とする芳文社が百合アンソロを刊行したのはまさに歴史の必然と言える。
特にあらた伊里先生の「総合タワーリシチ」は他誌の日常系漫画とも十分に張り合えるスペックだったのではないだろうか?
タワーリシチでは、現状でも特に強い「あの娘にキスと白百合を」でも用いられている「努力家の秀才×ふわふわした天才」というカップリングをメインに据えている。
しかし、あのキスと違うのは、作品のテンションだろう。
とにかく騒々しくて賑々しい。
暴言だって飛び交うし、変顔絶叫は毎度のことだ! 百合漫画は繊細!なんて価値観を笑い飛ばすテンションは、唯一無二だった。
実際アニメ化の話もあったらしいけど……うう……っ!
それから意外なところだと、現在も連載中のアトム ザ・ビギニングなど、メカ描写に定評のあるカサハラテツロー先生もつぼみで描いていたんだ。
もちろん、その持ち味であるメカの描写を存分に活かしてね。↓
タンデムLOVER (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
- 作者: カサハラテツロー
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2011/02/12
- メディア: コミック
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ゴツくてむせるような武骨なロボット、タンデマインは名の通り二人で操縦するロボットだ。表紙のように肩車みたいな恰好で操縦し、戦闘や立体起動も行えるという、優雅さとは無縁な実用本位のマシンでもある。
狭い機内、連携が不可欠な操縦、真後ろにいるパートナー……何も起きないはずがなく……
ガルパン、ストライクウィッチーズ、艦これのようにイカつい兵器と女の子の組み合わせは定番だが、そこに細やかなマシン描写と二人で一つという百合要素が組み込まれている漫画はタンデムLOVERだけだろう。
ガジェットに惹かれる君は手に取ってみるべきだ!!
機体後方の索敵担当は設計上*7、けっこう恥ずかしい体勢というケレン味もあるよ!
それからそれから、陰のある女教師とクールな子のカップリングが素敵な、きぎたつみ先生の「共鳴するエコー」とか、「ひとりぼっちの地球侵略」でも知られる小川麻衣子先生の、お互いを傷つけあうほどに息苦しい「魚の見る夢」とか、すすけた空気感とは対照的に色鮮やかな百合を見せてくれた宇河弘樹先生のの「二輪乃花」いまでも色あせない力のある百合はたくさんあるんだ!
つぼみは価値ある百合アンソロなんだ!!
たしかにつぼみは休刊した。みんなの記憶に埋もれていくだけかもしれない。
しかし、2010年代につぼみは確かに花開いて、百合界に様々なものを遺したんだ!
つぼみから百合に入ったって人は私以外にもいるだろう。
別ジャンルの作家の魅力を発見できた人もいるだろう。
つぼみVol.4を読んだ時の輝きは、私にとって確かなものだったんだ!
まだまだ言いたいことはあるぜ!! 語り切れねえな!!!!!!
別の百合アンソロも語る予定だけど、つぼみだけはまた語るっきゃねえよな!!!
次はdolceを予定している!!!
百合姫で連載を始めたあの先生も載ってるぜ!!!!????