レズセックス概論 1――2010年代のレズセックスについて
最近の百合ブームは某少女小説のブームの派生で生まれたせいか、エロがないほうが正しくてあるのは間違ってる、などと決め付ける風潮があるように感じるんですが、女子同士愛し合っているなら、身体の関係も求めるのは実に自然なことでしょう。まあ女子同士キスもしない関係なら百合に対してそれほど免疫がない読者も取り込めるという利点はあるし、そういうのも変わっていて私も面白いと思うんですが、本当に百合が好きならやっぱり結ばれた後のその先のシーンがあっても自然に感じる人は多いと思います。
私はこの作品集をみて実に自然だと感じましたがいかがでしょう?
これがうまく継続されたら良いなあ。10年前は萌え百合な漫画も、ティーンズラブすらほとんどなかったんですからね。私も2・3年前には「百合専門誌は難しいんじゃないか」ということをブログの記事で書いたりしたものでしたが実際に百合専門誌が発売される日は来ました。時代は変わるんです。これがうまくいけば5~6年後にはTL百合物件が毎月いっぱい発売されてる……なんてことも夢ではないはず。雨傘『百合な日々』
2007年11月30日23:18の記事『百合姫Wildrose』より引用
時代は変わった。
かつて“ほとんど無かった”百合漫画は2020年の今、個人で追い切れないほど拡大した。
百合の需要は市場で確立したと信じたい。
レズセックスは変わっただろうか?
2007年に百合姫Wildroseが刊行されてから今に至るまで、レズセックスは変わったのだろうか?
2020年への突入、それは10年代の終焉でもある。
このブログは以前もレズセックスで使われるのは中指と人差し指なのか、それとも中指と薬指なのか? なんかを研究してきた。それならこのブログで10年代のレズセックスも総括しないとね!
そういうわけで10年代のレズセックスを振り返っていきたい。
この10年でレズセックスはどう変わっていったのか? 女の子同士の性行為はどのように表現されてきたのか? そこについて、考察してみよう。
まずは簡単な年表を用意した。これが2010年代のレズセックスの歴史!
百合えっち史 | 年表作成サービス「THE TIMELINE」
0:ゼロ年代のレズセックスについて
まず、10年代を語る前にゼロ年代について目を向けてみよう。
ただ、当時のシーンについて、私は多く語ることができない。
だからあくまでもサラっと触れる程度で終わらせてしまうことをさきに断っておく。
百合姫の前身である百合姉妹の創刊が2003年、百合ブームの嚆矢たる『マリア様がみてる』のアニメ化も2003年で、現代の百合という概念はこのあたりから生まれたように思う。
90年代の『セーラームーン』や『カードキャプターさくら』でほころびはじめていた百合のつぼみは、ゼロ年代に花開いたと言えるのではないか。
このゼロ年代で鉄板といえるのが
【キスから始まる乙女たちだけの秘密のラブ・メモワール。】柔らかく包み込むような優しい唇、可憐に揺れるピンクの乳首、そして誰にも触れられたことのない恥ずかしいアソコ…私と貴女だけの、秘密のお遊戯を始めましょう。良家の子女が集う籠目女子学校を舞台に、しっかりものの風紀委員・桃子、プレイガールの思信、思信の召使いの麒麟や真弥たちが織りなす男子禁制の秘密の花園。女同士の美しくもエロティックな関係、こっそり覗いてみませんか? (Amazonの紹介文より引用)
少女たちの群像劇を描く百合漫画で、百合だけのエッチシーンを収録した単行本というのは極めて貴重で、それだけにかなり有名な作品だ。
玄鉄先生は現代でも百合作品を発表しているという点もすごくて、最近だとバンドリのさよひな本なんかも発表してるね。十五年以上、百合創作を続けると言うことは本当に偉大だ。
他のレズセックス作品についてだけど、当時の資料としてはこのようなものが見つかった。
このページも『百合な日々』様 からの引用で、雨傘氏のサイトは本当に当時の資料として貴重だと思う。よければ直接アクセスしてみてほしいよ……。
すどおかおる先生や岸虎次郎先生はピックアップしておきたいね。
特にMAKA-MAKAなんかは肉体関係込みの関係性を扱った作品で、現代の方がウケるんじゃないかと思うぐらいだ。オトメの帝国も続刊していることだし、新装版がほしいね。
このページで特筆すべきはアンソロジーや単行本に数篇だけ収録された百合作品がとても多いということだ。
百合だけでやるっていうのはそれだけ難しい時代だったことは間違いない。
百合というものの需要自体が、まだ未知数だったのかもしれない。
百合と明言された作品も百合姫でしか見られなかったような時代(百合姫Wildroseの刊行が2007年)で、性行為まで描写するモノは、どちらかといえばAVのレズビアン物の方が多かったぐらいだ。
ちなみにデータとしてはやや薄弱だけど、FANZAの動画で2000年代のレズビアンカテゴリのAV500件ほどデータを採取してみると、レズという単語が百合の4倍使用されていた。
さらに同じくFANZAの動画で2020年代のレズビアンカテゴリのAV500件のデータを採取するとレズという単語が400回使用されている一方で百合は7回しか使用されてない。
エロ要素の有無でレズと百合が分けられる要因というのはこの辺りが起源なのかもしれない……
1:10年代前期~中期、オークス百合アンソロ
2010年に突入し、コミック百合姫は百合姫Sと統合。以後隔月誌として歩んでいく。
そしてレズセックス界でも動きがあった。
紅百合 -Girls Love H-
百合度★★★★★(5.5)エッチあり百合アンソロジーが新創刊!良い内容でしたね~。
楽時たらひ先生やりーるー先生、みら先生など、元々百合好きにとって人気のある作家さんに加えて、向井弥葵先生や夢ノ紫也先生、和泉凛先生などオークスのアンソロジーの常連の中でも特に百合属性の強い方を加えていて、今回はほんとに良い人選でした。雨傘『百合な日々』2011年9月30日
オークスの百合アンソロが刊行を開始したのだ。
10年代初頭のレズセックスはこのシリーズが牽引していたと言っていい。
個人的に好きなのは
狛句先生の『私のシュミってヘンですか?』
あたりかな……。残念ながら電子化されていないので入手が難しいというのもネックだけれど、是非チェックしてほしい。
さて、オークスの百合シリーズは残念ながら2017年に休刊してしまったのだけれど、当時の作家陣が多く参加しているLiLiumという同人百合アンソロが最近生まれた。これもオークスの百合シリーズがなければ生まれなかったはずだよ。
上のレズセックス統計の記事でだいたいのことを語ってしまったのでここであえて語ることは少ないのだけれど、2011年から2017年までの間、確実なレズセックスの供給源として機能していたことは間違いない。
そして特筆すべきは
・男女恋愛の要素がない
・ふたなりや性具など、男性器を想起させる物も使わない
という2点だろう。ここが百合好きな層にしっかりヒットしていたのは間違いない。
裏を返せばそれだけ当時は男が挟まってきたり、えっちの時は生えてくる百合作品が多かったことになる。また、基本的に和姦、いちゃラブものが中心だった。
竿を出さないという点を守るのが大事なポイント*1というのは強調しておきたい。
このオークス百合シリーズの特徴は貝合せが少なかったことだ。
レズセックス統計の記事から行為のバリエーションについて引っぱってみるとこうなる↓
およそ180作品の統計だけど、指を挿入する行為が一番メインで、貝合せは全体の6%にすぎない。
これの原因として推察できるのは
・真偽はともかく『貝合せは気持ちよくない』という知識が広まっていて、リアリティがないから
・性器を合せる描写が全年齢である百合姫wildroseでは描写しにくかったから
・体位の関係でやりながらキスする、見つめあうといった描写が難しいから
あたりだろうか。
特に貝合せは気持ちよくないという知識は以前のアンケートで75%ほどの方がご存じで、『気持ちよくない行為をしている』→『見せ物、作り物である感じが強まって二人の関係性に没入できない』という面は少なからずあったのではないだろうか。
行為として存在していた貝合せは、この時期あまり人気のあるプレイではなかった。
ちなみに貝合せについてのアンケートは今も募集してるので、よかったら回答しておくれ↓
https://docs.google.com/forms/d/1kRd2c2OVupzjShW8iFKwS1sVjMtMiqsUr_vconjvJq8/edit
2:10年代中期~後期 貝合せの再発見
オークス百合シリーズが休刊する2017年前後から、現在のレズセックス界は少しずつ構築されてきた。
現在の商業レズセックス界を語るうえで、未だに定期刊行されるキルタイムコミュニケーションの二次元ドリーム文庫を無視することはできない。
KTCでは2013年にあらおし悠先生の『百合グラドル・優衣 禁断ガールズラブ』をきっかけとして、現在に至るまで定期的に百合えっち小説を刊行している。
商業百合えっちシリーズの継続期間としては今やオークス百合シリーズを超えようとしている。
【CM】
ちなみにKTCの最新刊『蒼百合館の夜明け』は私が著者!!!
秘密を抱えたお姉さんとマジメだけどHに興味津々な女の子の年の差百合!!
2020年2月28日発売!!!
http://ktcom.jp/books/2db/2db410
……CMはさておき、KTCの百合シリーズでも基本的にオークス百合シリーズと同じく、竿要素がなく、いちゃラブ中心という方針が貫かれている。
ただし、プレイ内容はより踏み込んでいて、3Pや貝合わせの要素もしっかり含まれているのが大きな違いとなる。
元々の媒体として、成年向けのジュブナイルポルノを刊行しているから、性描写を抑えるという方針が取られなかったものと思われる。
また2015年ごろより、徐々にオークス以外からも百合えっち漫画が発売されはじめている。
定期的に百合漫画を描いている作家としてはあさぎ龍・焔すばる・syou・白玉もち・あやね先生が挙げられるだろうか。
他にも散発的に百合えっちのみが収録された単行本も刊行されている。これまで単行本の一部にのみ百合作品が収録されてきたわけだが、この傾向が変わりつつあるのが感じられる。
注目したいのはコミックLO・永遠娘を刊行している茜新社だ。
コミックLOでは白玉もち先生
永遠娘ではあやね先生が連載していて、いずれも2020年に単行本が期待される。
売れ行き次第ではまた百合作品の連載が始まってもおかしくはない。どっちもめちゃくちゃいい百合なんだよ……
茜新社がレズセックスの最前線になる日も近い!
さて、これらの作品では、明白に異なる点として、『貝合わせ』が積極的にプレイとして持ち込まれている。*2
いずれの作品も成年誌が掲載されていたものが主となっており、KTCの百合と同じく百合を積極的に読んでいない層にもアピールすることを目指した作品が多かったと言えるだろう。
また、百合読者の意識自体が変わりつつあることも考えられる。
読者が、かつてほど性的描写の有無で百合を判定しなくなったことは、百合姫のアンソロジーでレズ風俗アンソロジーが、多くのシチュエーション別の百合アンソロの中で唯一第2弾がでたことからも察せられる。
3 まとめ
2000年代はごく僅かな単行本の他は、単行本の中に百合の短編が少しだけ載せられていた、という形がほとんどだった。
2010年代前期は、オークス百合シリーズ・百合姫wildroseが百合えっちの供給を担っていたが、いずれも作品の方針や表現上の制約として貝合せを用いないものが多かった。
読者の意識に、貝合せまですると百合ではなくなるというものがあったことも考えられる
2010年代中期~後期にかけて、オークス百合シリーズ・百合姫wildroseが共に休刊してしまうものの、KTCは現在まで百合小説を刊行し続けていて、さらに他の出版社から百合えっちのみを収録した単行本が刊行されつつある。
読者層も、性行為を伴う百合を許容しつつあるのが、全年齢向けのアンソロジーでのテーマからも感じられる。
こんなところだろうか。
百合界隈はかなり活発化してきているけれど、百合えっち界はまだまだ日陰に存在するのを感じている。
これが発展していくには、やはり売れていくことが商業の世界では不可欠になる。
ただ、読者層の意識は変わり、百合えっちが受け入れられる土壌は生まれつつあるんじゃないだろうか?
ゼロ年代、レズセックスの民は男女エロ本の中の僅かな百合を啜り喰っていた。
10年代、レズセックスの民は彩百合を失った。
20年代、レズセックスの民は……
これからもレズセックスが増えていくのを祈るばかりだよ……
あと単行本売れてほしい、マジでお願いします。
もっかいリンク張っとくからよろしくな!! ↓
ルミナス=ブルー-まだ見ぬ百合を求めて
https://twitter.com/okome103/status/1114426108785467392
恥ずかしながら、私が「ルミナス=ブルー」を知ったのはこのtweetがきっかけだった。
端的に言って、この百合漫画は最高に面白い!
この漫画は終わってはならない。そう感じたから、紹介しようと思う。
大まかなあらすじとしては、写真部に憧れて転校してきた少女「光」は、転校先で笑顔が素敵な二人組「雨音」と「寧々」と出会う。
撮影を通して二人と仲を深めた光だったが、写真部でたった一人だけ残った「うちほ」から「雨音」と「寧々」は元々付き合っていたと知らされ――
みたいな感じだ。第一話の扉絵が、三人の関係性を象徴していると思う。
向かい合う光と寧々、そんな寧々を見つめる雨音。それが、この三人の形だ。
第一話で主要な人物はしっかり出そろっているから、あれこれ説明を聞くより、まずは一話だけでも読んでみてほしい。それで惹かれたのなら、買う価値は保証しよう。
https://www.cmoa.jp/title/170954/
ルミナス=ブルーの何が良いのかというと、繊細な画力もさることながら、「運命の二人」がクローズアップされがちな百合漫画で、重層的な感情の交差を描こうとしている点にある。
大体、こういう感じの人間関係だ*1
「雨音」と「寧々」はお互い元カノだが、関係が完全に切れたわけではなく、微妙な気持ちが残っている。
特に雨音は未練が残っていながら、その一方で幼馴染みのうちほとも並ならぬ関係になってしまっている。
百合漫画で複数カップリングを描く際は、ペアを多数登場させる方式や、あるいは三角関係が多く用いられる。*2
しかし、ルミナス=ブルーはより複雑で入り組んだ関係を提示してきている。
東兎角と一ノ瀬晴
高山春香と園田優
白峰あやかと黒沢ゆりね
野間みみかと柚子森楓
小糸侑と七海燈子
固定されたペア、運命の二人を描く百合漫画はメタな読み方をすれば、大抵は結ばれる(最後はどうなるのか分からないけど……)。三角関係というのも、あくまでもメインのカップリングの障害であったりドラマを生み出すためのものになりがちだ。
しかし、不均衡なまま、仲が良い三人組という形で構築されたルミナス=ブルーの関係性は、とても危うい。分れたはずの雨音と寧々が関係を修復するかもしれないし、光が雨音に気持ちを打ち明けるかもしれない。
様々な秘密を隠しているうちほが激しく三人の感情を揺さぶってくるかもしれない。
この先がどうなるのか分からない。これは、とても魅力的だと思う。
この二人は結ばれるというお約束の元で楽しむ百合もいいものだけど、先が分からない未知の領域に踏み出すことも、スリルや感動があるものだとおもう。
ルミナス=ブルーは、まだ見ぬ百合を求める冒険だ。
この四人の関係を描ききるには、多くのページが必要になるだろう。不本意な形でこの冒険が終わるのは、本当に惜しい。
運命の二人が分からないままで走りきってこそ、この百合が飽和した時代に「新しい百合」が生まれると私は思う。
だから、少しでも興味があるなら時間とお金をこの作品に割いてほしいとおもう。
刺激的なわくわくするような新しい冒険が、楽しめるはずだから。
こっからは自分語り!!!帰っていいぞ!!!!!
百合界がかなり賑わってきた一方で、百合と言うだけではもはや宣伝たり得ない時代が来ている。
我々は追い切れないほど多くの百合に囲まれていて、選択する権利が与えられた。もはや突然のヘテロ展開に怯えながら、爆弾処理みたいにページをめくる必要もない。
その一方で、供給と需要に対して宣伝や周知が間に合っていないようにも感じる。
宣伝というのは作家だけが負うべき仕事ではないし、少年ジャンプのような最大規模の資本と土壌がないのに二巻で打ち切りを決めてしまう方針は疑問に感じる。それは、作家の使い捨てに等しい行為だろう。
かつて、私は百合姫編集部で働こうとして面接を受けたことがある。
結果は残念ながら不合格だったけれど、そこで百合姫の編集さんが言っていたことは今でも覚えている。
「今は、兼業しなければやっていけない作家も多く、そうした作家のみんなが百合漫画でやっていけるようにしたい。それが百合姫を月刊にする理由だ」
この数年で、百合はとてもとても広まったとおもう。百合展は毎年、来場者が増えている。百合アニメや百合ドラマも生まれつつある。百合姫以外の雑誌で百合アンソロジーが出たり読み切りが掲載されるようになった。
そうした中で、百合の最前線である百合姫が百合作品の可能性を探らず、すぐに見限ってしまうのは残念に思う。
たしかに、市場が大きくなれば競争が生まれ、そこから淘汰される作品があるのは仕方ないことだ。
けれど、たった二巻で打ち切られ、次がどうなるのかも分からない環境に置かれている百合姫の作家は果たして「百合漫画でやっていけている」だろうか?
百合姫の編集部は、かつて私に語った志を今一度思い出していただきたい。
才能を発掘し、作家を育て、新しい百合を作り出すことは商業でこそ可能な試みだと思うから。